山本直彰:著
膠は魔物だった。だから、魅力ある接着剤でもあった。27年間使い慣れたそんな膠と別れたのは、鉄扉を支持体として岩絵具で描く時だった。アートグルーの登場である。それから28年(アートグルー以前の「雪膠」から使用)が過ぎた。
画家と素材の関係は微妙である。どちらが優位に立つともなく、人はそれぞれの方法を見出して行く。その時代に即応する素材というものもある。そうして美術は美術史は作られてきた。伝統とは過去の連なりではなく、新たなものへの抗いの闘争が生み出してきたものだ。世俗的な勝ち負けではなく、勝負を度外視したところにこそ表現の醍醐味があり、それを他者が見るのだ。私にとってアートグルーはその為の剣であり、またある時は内的な血液であった。
『Door is Ajar』 1996年 鉄扉/麻紙/岩絵具/箔/アートグルー
作家プロフィール
1950年 神奈川県生まれ
1975年 愛知県立芸術大学大学院日本画科終了
1990年 和光大学非常勤講師
1992年 文化庁芸術家在外派遣研修員(プラハ)
2011年~2020年 武蔵野美術大学造形学部日本画学科特任教授
留言